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一級建築士事務所 佐久間達也空間計画所
東京都知事登録 第45270号

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Tel 03-5809-0855
Email t-sak@pop01.odn.ne.jp


 ミシェル・フーコーは著書「言葉と物」の冒頭で、スペインの宮廷画家ディエゴ・ベラスケスによる絵画作品「侍女たち」を取り上げ、この絵の不思議な構図について分析しています。 暗闇の中窓から射し込む陽光が中心の幼い王女とその周りの侍女たちを照らし、左端にはベラスケス本人とされる画家が大きなキャンバスの向こうより、王女と同じく正面を向いています。画面中央の遠方には鏡があり、その中には直立した国王と王妃が小さくぼんやりと映っています。
 フーコーはこの絵画には3重の視点があると述べています。絵画を見ている鑑賞者自身の視点、ベラスケスが絵の中でキャンバスに描いているであろう鏡に写っている国王夫妻の視点、そしてこの絵画を制作しているベラスケスの視点です。何故ベラスケスがこのような絵を描いたのか、個人的解釈として、おそらくベラスケスは主人である国王を、喜ばせたかったのではなかろうかと考えます。ベラスケスはこれまで幾度となく国王を描き、家族を描いてきたのではないでしょうか。そうすると国王は自分を描くベラスケスを長い時間見てきていると言えます。そこでベラスケスは愛娘である王女の素の様子を描いた肖像画にわざと自身を挿入したのではないかと推測します。王女の表情は、じっと直立している国王夫妻を怪訝に見つめているように見えます。国王からの視点を複数同時に重ね合わせ、普段の国王の目線を意識したユニークな構成としたのではないでしょうか。
 後世の芸術作品への分析が作者の真意と合致するかどうかは難しいと思われます。作者が鑑賞者による解釈によって作品を拘束されることを望んでいるとも思えません。解釈の幅が広がるほど作品の魅力は増幅します。
 この絵画は複数の部分において細やかに工夫を凝らした結果、多重の視点を重ねた神秘的な作品になったと考えます。このような作品へ向かわせた原動力は、ベラスケスの国王への心遣いなのではないかと考えます。芸術は精神を込め表現を深めることで豊かになると言えます。ベラスケスの道義的な精神が発想を柔軟にし、このような独創的な構成の作品へと導いたのではないかと考えます。
 作品の制作には常に進歩や前衛が求められがちですが、闇雲に制作しても芯のない結果になるおそれがあります。作品は作者が持つエネルギーが豊かな表現力と結びつき生成され、作品は作者が主体へ何らかの刺激や快楽を与えたいという欲望を帯びているものと考えます。第3者である鑑賞者は審美的に見ながら作品をより深く読み込みたいという欲望に駆られます。鑑賞者に作品の真意は理解できなくとも、「侍女たち」の主である国王夫妻は、作品からベラスケスの意図を理解したでしょう。
 建築は使用者=主体の存在があり、主体の合意や協力なしには存在し得ません。作品作りにおいては広くさまざまな視点を合成することになりますが、その精神は道義心に根ざしたものでなければならないと考えています。


Tatsuya Sakuma Architect
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HP: http://tatsuyasakuma.com/


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